某機関紙への寄稿文

「某機関紙への寄稿文」

「プロ市民」人権賞〜社会運動を頑張るアナタへ〜

 

まるで笑えないジョークの世界。

現在進行形で原発事故の解決もまだ見えないのに再稼働。憲法で非戦を誓っているのに戦争準備。そんな混沌とした数え切れないアンハッピーな政治的事件が日本を覆っています。

そんななか、市民運動を地道に続けている人たちを表彰する賞の名前を「『プロ市民』人権賞」と名付けたのには、気味悪い冗談みたいな日本を、笑い飛ばしたいからです。「プロ市民」という言葉は、「金銭目的の偽善活動家たち」という意味で市民運動を批判したり侮蔑する文脈で使われます。賛否も含め、知らない誰かのアンテナに引っかかれば…と、あえて仕掛けてみました。公募をかけると九州だけでなく、日本全国はもちろん、海外からも含め、団体や個人含めて25の応募がありました。選考に関しては、マスコミなどに取り上げられるような有名人ではないけれど、地道に頑張っている方々へスポットライトを当てる事を意識しました。

そして、迎えた12月15日は、ジャズバーを借り切って初めての表彰式です。公共施設ではなく、この場所を選んだのは、受賞した団体をお祝いするのに、映像や音楽、ダンスなどを交えて派手にやりたかったから。

 

記念すべき第1回に受賞したのは、「草の根の会」(大分県中津市)。反権力・反公害の立場から執筆活動を続けた故・松下竜一さんの遺志を継ぐだけでなく、反戦や反原発を訴え、様々な人たちとつながりあいながら街頭活動などを現在も続けている姿勢が、主な受賞理由です。賞金は10万円。副賞にも懲りました。受賞団体を現地取材して、会を象徴するデザインのオリジナルTシャツを作成しながら、同時に、これまでの活動を約10分の活動紹介ビデオにまとめたのです。

そんな活動をたどる過程で、たくさんの発見がありました。例えば、1972年に「海を殺すな」というゼッケンを胸にメンバーが発電所建設現場で抵抗した姿と、海へ土砂が投入された2018年の辺野古新基地建設現場での相似性を見つけたこと。また、松下竜一さんの存在はとても大きなものですが、僕自身は会ったことはありませんし、会発足のきっかけになった公害ブーム時代には生まれてもいません。しかし、リアル世代でない僕のような人間が、彼らの軌跡を次世代へつないでいく意味があるのかもしれません。

 

アメリカ文学作家のカート・ヴォネガットJrは「世界は混沌に溢れている。だから、せめて自分から見える範囲、四角い窓という自分の表現方法で秩序を作りたい。それが私にとって小説だ」と語っています。この人権賞も、そんなアクションになれますように。

 

いのうえしんぢ(「プロ市民」人権賞・運営委員)