人権賞を支える人の紹介第二弾は、中嶋昭範さん。
最初にお会いしたのは、いつ頃でしょうか。
たしか、2015年の安保法案反対運動の時に、集会でみかけたのが最初だったはず。長髪を後ろでひとつに結び、デモ前にフランスパンをかじって待機される姿が印象的でした。彼を一言で現せば「ミステリアス」。
彼の仕事は、ITエンジニアという職業だけど、実は建築士の資格も持ってらっしゃる。一体どんな職歴があるのかなと、色々と尋ねてみたくなります。しかし、本業のホームページ作成をしながら、そこに掲載する動画撮影~編集など、その仕事の領域はとても広いのです。特に、デモや集会を取材して、その日のうちに素早くアップロードするという、その手際の良さには驚かされます。
そんな彼自身が重要視する社会運動のテーマは、自由、環境、民主主義でしょうか。戦争や人権に関する集会やデモ行進に参加するだけでなく、裏方スタッフとして関わること。
また、市民連合ふくおかなど野党共闘でのフィールドにも力をいれています。これまでに、衆議院選挙、参議院選挙、統一地方選挙、市長選挙などで「投票行動がより広く多くの人たちにもつながれるように」と動画を駆使して、インターネット選挙の作業を担当するのが中嶋さんなのです。具体的に、市民派の選挙活動自体にも直接的にスタッフとしても関わりもします。それは選挙は政治家のものではない、それは市民みんなのものだ、という強い姿勢が垣間見れます。
また、人間が生きていくうちに欠かせない植物、農作物。それらが置かれている状況、種子法と種苗法に関して、警鐘を促すためのイベントを開催することにも、力を注いでいます。その集会が、リベラル派も保守派も多くの人を巻き込んでいる多種多様な彩りは、それを作るのに縦横無尽に動いた彼独自の働きに寄るものでしょう。
そんな中嶋さんには、この人権賞のホームページの作成と、この賞の売りのひとつになっている「団体紹介ビデオ」の編集作業を担ってもらっているのです。受賞団体決定から、授賞式までのかなり限られた短い時間の中で、対象者を取材して、ビデオを作りあげなければいけません。編集作業では、スタッフからの細かいリクエストもきちんと丁寧に受けてもらっていて、毎回頭が下がります。
そんな広い領域を横断する中嶋さんを、突き動かすものは一体なんでしょうか。
これまで一度も質問したことはないのだけれど…だから「おそらく」とか「たぶん」というあやふやな枕詞が付くのですが、それは音楽の力ではないかと睨んでいます。
その理由のひとつに、彼のメールアドレスにはロックバンド「ドアーズ」の名曲「ハートに火をつけて(Light My Fire)」のフレーズがはいってるからです。このバンドには「ロックの殿堂入り」「フロントマンのジム・モリソンが過激で挑発的」などのキーワードをすぐに連想することが出来るのですが、ドアーズの真骨頂は、虚無感ではないでしょうか。
アメリカが泥沼にはまったベトナム戦争を背景に生まれたヒッピームーブメントの傍に立ちながら、その輪にも染まらないという彼らドアーズの視線は、もっと遠くにありました。フランシス・コッポラ監督の映画「地獄の黙示録」の中で、ヘリコプターがベトナムの密林の上に隊列をなして飛んでくるシーンに、長尺曲でお馴染みの「ジ・エンド」が流れ、そのジム・モリソンの虚無感溢れるボーカルが覆います。その矛盾するようでもあり、不可思議な重なり具合が、スクリーンを見つめる私たちに戦争の愚かさ、悲惨さを訴えかけてきます。この戦争による終末的な空気を、現代の日本でリアルに感じたくないからこそ、中嶋さんは今も路上に立ち続けているのではないか。そう推測したくなるんです。
とは言いつつ、中嶋さんに突き詰めて「あなたが社会へと揺り動かしている源泉は、ロックを愛する者が抱える苦悩なんでしょ?」と問い詰めたことがありません。その問いかけは、今後の楽しみにとっておこうかな。
(運営委員・いのうえしんぢ)
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