スタッフのつぶやき2. 5月18日

 今年で3年目となる「プロ市民」人権賞、2020年度分の新しいリーフレットが完成しました。あちこちで配布予定です。見かけたら、是非お手に取ってみて下さいね。

 ところで5月18日が何の日か、皆様おわかりになりますか?そう、「検察庁法改正案の強行採決を安倍政権が断念した日」です。

 この改正案は現在63歳の検察官の定年年齢を65歳に引き上げることと、次長検事、検事長、検事正ら幹部は63歳で役職を退くことを柱としています。ただし、特例として「内閣の判断により、63歳を超えても役職に留めることができる」ことが付け加えられており、内閣にとって都合のいい人物を検察の要職につけておくことが目的ではないかと懸念されていました。当初、今国会での成立が確実視されていましたが、潮目を変えたのは「ツイッターデモ」です。

 この改正案に反対して、「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグを付けて投稿するツイッターデモが始まったのは5月8日。30代の会社員女性の発案です。最初はささやかなツイート数でしたが、芸能人、漫画家などの著名人が賛同し発信し始めたことから加速度的に広がり、3日間で500万ツイートを超えました。このことがマスメディアで報道されるとさらに注目を集め、検察庁法改正に関心を持つ人がどんどん増えていきます。この時期に行った世論調査では改正案への「反対」は6割ほどで「賛成」の2割を大きく上回り、内閣支持率が急落しています。日本のあちこちで抗議の街頭アピールも行われました。人々の声がネットを飛び出し、現実社会を動かし始めたのです。結果、与党はこの改正案の今国会での成立を断念せざるを得なくなりました。

 安倍政権が誕生して7年、私たちはこの間何度も与党が世論や野党の反対を押し切り、法案を強行採決させるのを目撃してきました。しかし、2020年5月18日、ついに世論の力がそれを阻止したのです。

 検察庁法改正案反対へのムーブメントは、なぜこれほど巨大なものになったのでしょう?一つにはやはり、多くの著名人が抗議の声を上げたことでたくさんの人が知ることになったからでしょう。ただ、これがコロナウイルスの感染拡大のために人々が外出を控えている時期でなかったら、これほど注目を集めたでしょうか?

 コロナウイルスの影響により在宅勤務や自宅待機になったため、以前よりもニュースを見るようになり、政治や社会への関心が高くなった人が少なからずいるようです。これからの生活への不安から、政治を「自分事」と捉えるようになったことも関係しているでしょう。体感としても、普段は政治の話題などほとんど出ない私の職場でも、同僚たちと政治の話をすることが増えました。

 コロナウイルスの状況が落ち着き、多忙な日常が戻ってくれば人々の政治への関心はまた薄れていくのでしょう。この7年繰り返されてきたのも、「安倍政権への批判や抗議の声が高まるが、時間がたつと忘れられていく」ことでした。でも、私たちは今回初めて「人々の抗議の声によって強行採決を阻止する」という成功体験を得ました。たった一度、一つの法案の強行採決を止めたというだけのささやかなことに過ぎませんが。(問題のある法案は他にも山積みで、しかも検察庁法改正案ほどには関心を集めることができていません)

 ですが、今回たくさんの人が抗議しそれが政治を動かしたという事実は、「声を上げる」ことへのハードルをちょっとだけ、低くしたはずです。「たったそれだけ」と侮るなかれ。社会を変えるというのは、そうしたささやかなことの果てしない連続なのです。

 なお、5月18日はお隣・韓国の人たちにとっても重要な日です。1980年5月18日、光州(クァンジュ)という街で、当時の軍事独裁政権に抵抗し民主化運動を行う人たちが軍隊により虐殺されました。日本では「光州事件」と呼ばれていますが、「事件」などと生やさしいものではありません。韓国では「光州518(クァンジュ・オーイルパル)」と呼ばれています。光州518自体は大変な悲劇ですが、この弾圧への怒りは民主化運動の原動力となり、1987年、韓国は民主化され全斗煥政権は倒れました。

 韓国では5月18日は今でも毎年、国を挙げて犠牲となった人々を悼み、民主主義の大切さを考える日となっています。光州518から40年遅れですが、日本でも5月18日が「あれが始まりだった」と振り返られるような、大切な記念の日となりますように。

(運営委員・日髙)