受賞者・受賞団体その後2. 草の根の会

気を取り直さねばと思うこの頃です。

                  第1回受賞団体代表・梶原得三郎

 

 松下(竜一)氏亡きあとも10数年に渡って存在し続け、かつ闘い続けている「草の根の会・中津」は、「闘いの磁場」として素晴らしい。そして、互いに褒め合うに足るものとして、「プロ市民」人権賞の名にふさわしいと考えます。

 という理由で選ばれたのですが、これは、あるといえばあるものの、ないともいえる「草の根の会・中津」にとっては、まさに青天の霹靂でありました。

 別に、世を拗ねているわけではないのですが、私には、どうしようもなく、賞というものに丸ごとは馴染めないところがあります。

 それゆえ、最初に候補者(団体)推薦依頼のリーフレットを受け取った際に私が思ったのは、こんな呼びかけに応える人はきっと少ないのではないか、もしかすると誰もいないのではないか、ということでした。それでは立ち上げた人たちがあまりに痛ましい、という思いから私なりに頑張って、二人の人を推薦したのでした。

 何しろ、筒井修さん(福岡地区合同労組代表:2020年1月逝去)、木村京子さん、いのうえしんぢさんたちが、「頑張っている者同士、たまにはお互い褒め合おう」という趣旨で立ち上げた賞で、横田耕一さんや小倉利丸さんが審査に当たられるということですから、せめて応援くらいはさせてもらおうと思ったのです。

 その後しばらくして、木村京子さんから、「『草の根の会・中津』が第1回受賞団体に選ばれました」との思いもかけぬ連絡があって、驚かされたのでした。

 「草の根の会・中津」は、もともと、ノンフィクションを中心に多くの作品を遺した松下竜一さん(67歳で2004年6月逝去)をいろいろな意味で支えた人たちの集まりです。

 2015年の竜一忌番外編(11回目)を最後に、それぞれの課題に取り組む中で、結構、合流することの多い関係が続いています。自然に、会を名乗ることは少なくなっていて、今は、日出生台での米軍による実弾砲撃演習に抗議する行動や、中津地区平和運動センター(労働組合の連合体)と共催する「平和の鐘まつり」への参加を呼びかける時、関連してメッセージを発するときの責任の所在を明らかにするために名乗る程度になっています。

 「平和の鐘まつり」といえば、紹介しておきたいエピソードがあります。

 8月2日、築城基地前の座り込みのあと、午後6時から8時まで、中津文化会館小ホールで開催することにして、さまざまな準備をしてきました。例年のことですが、準備はほとんど「草の根の会・中津」が分担します。「毎日がサンデー」なのは私だけですから、一手に引き受けました。

 欲張って、この間、私の目に触れた誰彼の文章を集めたりして、当日の配布資料をA4で10ページも作ってしまい、封筒に入れるまでにはそこそこ苦労がありました。ようやく、準備が整ったところで、7月31日、中津でコロナ感染者が一人出ました。

 平和運動センター議長が市職労委員長であることと、その人から「参加予定の組合員たちから、このタイミングで人を集めて大丈夫か、という意見も出ています」と聞いて、中止を決めました。35回目にして初めてのことです。そこから、出席予定者に中止を伝える作業が始まりました。きっと、あちこちに同じ苦労を味わっている人がいるはずだ、と思いながら何とかやり遂げました。

 コロナウイルスとの共生は、なかなかに厄介なようです。ワクチンへの期待もあるようですが、何億年も地中深く潜んでいるウイルスは、これからも止むことのない人間の自然破壊活動により、次々と地上に現れてくるのでしょう。巨大化する自然災害、もう、多分、終わることのないウイルス禍には、地球防衛の視点で人類が一丸となるしかないと思われるのですが、国際関係の現状はその真逆にあります。

 そんな中でも、私たちは日々食うために働き続けるほかはありません。木村京子さんが、雑誌『暮らしの手帖』(2020年7,8月号)で見つけた記事を教えてくれました。〈働くってどんなこと〉という視点で数人の人がそれぞれに一冊の本を取り上げているのですが、ジュンク堂池袋本店に入社して6年目の齊藤加菜さんという人が、松下さんの最初の著書『豆腐屋の四季 ある青春の記録』(講談社文芸文庫)について、次のように書いています。

 1968(昭43)年、豆腐作りが徐々に機械化され、人の心が合理主義に移り変わり、人間も合理的に働けなければムダなものと判断されてしまう。そんな中で「私は人生におけるムダをどんなに愛していることだろう」と、松下は言う。そのように生きているからこそ言える言葉なのであろう。

 生きるためには働いてお金を得る必要があるが、私たちは機械ではなく人間なのだから、自分で考えて、工夫を凝らして日々をよりよくしていくべきだ。苦しいこともあるだろうけど、その先に喜びもあるのだと信じて。

 本書には黙々と(手作りの)豆腐を作り続ける松下の姿が描かれる。働くこと自体が祈る行為であるかのように感じられる。働くこととは何か。答えは出るものではないが、誰かのために、何かのために、祈るように働けたら幸せなのではないかと思う。

 若い人の中に、こんな風に考える人がいると知った以上、「日本人男性の平均寿命を超えてしまった」ことはしばらく忘れて気を取り直し、「プロ市民」人権賞の発展と永続にも何かでお役に立ちたいと思い始めたところです。